【作品紹介】浮世絵・江戸絵画と動物2ー犬ー
長沢蘆雪「狗子図」
絹本著色、96.8×41.7cm、江戸時代中期(18世紀後半)
早いもので、2018年ももう終わり。そこで今回は2018年の干支、犬の描かれた作品をご紹介します。江戸絵画で犬を描いた画家、さらにいえば「子犬」を描いた画家といえば、円山応挙(1733-1795)でしょう。応挙作品は日本画には珍しい、優れた観察眼に基づいたリアルな描写が特徴とされています。しかし彼の描いた子犬たちはころころと丸く柔らかで、あどけない表情は思わず「かわいい!」と呟いてしまう愛らしさ。ぽってりとしたフォルムや幼い顔は、動物画というよりも現在日本中、あるいは世界中で愛されるキャラクターたちの先駆けのようにも見えます。このように応挙の子犬は「リアル」とは一見遠い存在ですが、西洋的な写実とは異なり写すものの本質部分、子犬でいえばまさに「かわいさ」の本質を的確につかみ表現するところに応挙の「リアル」はあったと評価されています。
そんな応挙の弟子であり、師の描き続けた「かわいい子犬」を引き継いだのが長沢蘆雪(1754-1799)です。今回ご紹介するのは、「狗子図」。淡く浮かんだ月のもと、7匹の子犬がくっつきあっています。柔らかな毛なみ、どこか拙い座り方などは応挙の子犬の愛らしさを引き継ぎ、さらにそれぞれの子犬のユーモラスな表情を丁寧に写しています。静かに月を見上げる子犬、幸せそうに眠る子犬、おとなしくできずじゃれる子犬と、子犬たちの性格まで描きわけているかのようです。師・応挙の物事の本質を鋭くつかみながらも、見守るように表現する暖かな視線は、弟子の蘆雪に引き継がれ、さらに進化を遂げているのがわかります。
慌ただしい中で心の落ち着く間もない年の暮れですが、蘆雪の描いた子犬たちのしみじみとした愛らしさを眺め一息つきながら、戌の年を締めくくるのもいいかもしれません。
本年も大変お世話になりました。
来年も何卒よろしくお願い申し上げます。
(参考文献:『動物絵画の250年』府中市美術館、2015年3月)